木もれびコラム
心不全のお薬 前編
心不全には、様々な分類がありますが、代表的なものに左室収縮能が低下した心不全(HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction、ヘフレフと呼びます)と左室収縮能の保持された心不全(HFpEF:heart failure with preserved ejection fraction、ヘフペフと呼びます)があります。
今回は、左室収縮能が低下した心不全 (HFrEF:heart failure with reduced ejection fraction) の代表的なお薬について述べたいと思います。
心臓には4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)があり、全身に血液を送り出すポンプの役割をいているのが左心室です。
心臓は拡張と収縮を繰り返し、血液を送り出していますが、前述の左室収縮能低下とは、その収縮力が低下した状態のことを言います。心エコー検査で確認することができ、いわゆる”心臓が悪い“という状態です。心不全の方の体のなかでは、弱った心臓をさらに働かせている状態、いわゆる、”馬車馬にむち打つ“ 状態になっています。心保護薬の役目は、”むち“ を止めてあげることになります。
このタイプの心不全の治療薬(主に心保護薬について)として、4本柱があります(循環器の業界ではファンタスティックフォーと言われています)。
ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)
心不全の状態では、レニンアンジオテンシンアルドステロン系(RAA系と略される)と言われる、血管収縮やNa+(塩のこと)貯留にかかわる内分泌系の調節機構があります。ACE阻害薬やARBはその機構を阻害し、血圧低下作用をもたらします。加えて、心臓を保護する作用があり、心不全の重要な薬となっています。ARNIは、ARBの作用とBNPという心臓保護作用のホルモンを増強するネプリライシン阻害薬が合わさった薬になります。
一般的には、高血圧治療として使われることが多いので(血圧を適正にすることは心負荷を減らす作用もあります)、心不全の方に使用する場合には、過度の血圧低下にも注意が必要です。
「血圧高くないのに、この薬を飲んでだいじょうぶなの?」と心配に思われる方もいるかもしれませんが、心臓保護作用を目的で慎重に服用してもらっています。
β遮断薬
心不全は、十分な血液を全身に送りだせないため、より心臓を頑張らせるために、交感神経が亢進している。“馬車馬にむちうつ”と表現されるように、弱った心臓をさらに働かせている状態ですが、これでは長い目で見たときに心臓がより弱ってしまいます。交感神経を抑制するための薬がβ遮断薬となります。日本で心不全で保険適応となっているのは、カルベジロールとビソプロロールになります。
高血圧治療薬としての用量と心不全治療薬としての用量に違いがあり、重症な心不全の場合に慎重に投与していく必要があります。
私が学生のころ、授業で、「昔はβ遮断薬の投与は、心不全では禁忌(絶対に投与してはいけない)だったけど、今は投与が推奨されるようになった」と紹介されました。禁忌に挑戦し、新しい知見が得られた非常に印象深い薬です。
次回は、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)とSGLT2阻害薬について解説したいと思います。